神戸地方裁判所 平成8年(ワ)731号 判決 1997年11月26日
原告
米田勝美
ほか一名
被告
株式会社ニューファースト
ほか一名
主文
一 被告らは、原告米田勝美に対し、連帯して金四一一万二〇〇〇円及びこれに対する平成六年七月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告らは、原告米田勝正に対し、連帯して金四一万円及びこれに対する平成六年七月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用はこれを二分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。
五 この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 被告らは、原告米田勝美に対し、連帯して金一〇〇四万〇四六〇円及びこれに対する平成六年七月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告らは、原告米田勝正に対し、連帯して金九五万円及びこれに対する平成六年七月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 本件は、後記交通事故(以下「本件事故」という。)により傷害を負うとともに物損を被った原告米田勝美(以下「原告勝美」という。)及び傷害を負った原告米田勝正(以下「原告勝正」という。)が、被告株式会社ニューファースト(以下「被告会社」という。)に対しては自動車損害賠償保障法三条、民法七一五条に基づき、被告安田直之(以下「被告安田」という。)に対しては民法七〇九条に基づき、それぞれ損害賠償を求める事案である。
なお、付帯請求は、本件事故の発生した日から支払済みまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金である。
また、被告らの債務は、不真正連帯債務である。
二 争いのない事実等
1 交通事故の発生
(一) 発生日時
平成六年七月二二日午後七時三〇分ころ
(二) 発生場所
神戸市長田区一番町二―一先 信号機により交通整理の行われている交差点(以下「本件交差点」という。)
(三) 争いのない範囲の事故態様
被告安田は、普通乗用自動車(神戸七七て九二八〇。以下「被告車両」という。)を運転し、本件交差点を東から西へ直進しようとしていた。
他方、原告勝美は、普通乗用自動車(神戸三五て二〇二〇。以下「原告車両」という。)を運転し、本件交差点を西から南へ右折しようとしていた。
そして、本件交差点内で、原告車両の左側面と被告車両の前面とが衝突した。
なお、原告勝正は、原告車両の同乗者である。
2 責任原因
被告安田は、本件事故に関し、前方不注視の過失があるから、民法七〇九条により、本件事故により原告らに生じた損害を賠償する責任がある。
また、被告会社は、被告車両の運行供用者であるとともに、被告安田が本件事故当時被告会社の業務に従事中であったから、自動車損害賠償保障法三条(傷害に関する損害)、民法七一五条により、本件事故により原告らに生じた損害を賠償する責任がある。
三 争点
本件の主要な争点は次のとおりである。
1 本件事故の態様及び過失相殺の要否、程度
2 原告らに生じた損害額
四 争点1(本件事故の態様等)に関する当事者の主張
1 被告ら
本件事故当時、被告車両の進行する西行きの信号も、原告車両の進行する東行きの信号も、ともに青色であった。
そして、被告車両は直進車両であり、原告車両は対向する右折車両であったから、被告車両に優先権があった。
にもかかわらず、原告勝美は、対向車両の存在を確認せず漫然と右折を開始したから、同原告にも過失があるというべきであり、その過失の割合は、少なくとも九割を下回ることはない。
2 原告ら
本件事故当時、被告車両の進行する西行きの信号は赤色であり、原告車両の進行する東行きの信号は青色であった。
そして、被告車両は右赤色信号を無視して本件交差点に進入したものであり、原告勝美には過失はない。
五 証拠
本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。
六 本件の口頭弁論の終結の日は平成九年一〇月八日である。
第三争点に対する判断
一 争点1(本件事故の態様等)
1 甲第五ないし第八号証、第一〇号証、検甲第二号証の一ないし七、乙第二号証の一、二、検乙第一号証の一ないし一一、第二号証の一ないし一九、第五号証の一ないし三、証人吉田敏昭及び証人成田浩之の各証言、原告米田勝美及び被告安田直之の各本人尋問の結果によると、本件事故の態様に関し、前記争いのない事実のほかに、次の事実を認めることができる。
(一) 本件交差点は、ほぼ東西に走る道路と、本件交差点から南に向かう道路とからなる三叉路である。
東西道路は、片側各五車線、両側合計一〇車線の道路であり、中央分離帯をはさんで、東行き及び西行きの各車線とも、それぞれの幅員の合計は約一六・八メートルである。また、両側には、車道とは別に歩道がある。
本件交差点の西側では、東行きの車線は、右側の二車線が右折車両用の車線であり、左側の三車線が直進車両用の車線である。
また、東西道路の最高速度は、五〇キロメートル毎時と指定されている。
本件交差点から南に向かう道路は、片側各二車線、両側合計四車線の道路であり、中央分離帯をはさんで、北行き車線の幅員は約八・〇メートル、南行き車線の幅員は約八・二メートルである。また、両側には、車道とは別に歩道がある。
(二) 本件交差点の信号は、一四〇秒を一周期とする。
このうち、東西道路の車両用の信号は、同時に青色の灯火になってから、西行き車両用は六二秒間、東行き車両用は七六秒間、これが続き、いずれも四秒間の黄色の灯火を経て、西行き車両は七四秒間、東行き車両は六〇秒間、赤色の灯火を示す。
したがって、東西道路はいわゆる時差式の信号であり、東行き車両用の信号のみが青色の灯火を示す時間が一四秒間ある。
また、北行き車両用の信号は、西行き車両用の信号が赤色の灯火になってから三秒後に、左折することができることを表示する青色の灯火の矢印を一四秒間示し、その後、青色の灯火を五〇秒、黄色の灯火を四秒、赤色の灯火を八六秒(うち最後の一四秒は青色の灯火の矢印を併せて示す。)、それぞれ示す。
(三) 本件交差点の交通量はきわめて多く、西から南へ右折しようとする車両は、西行き車両が赤色の信号のため停止した後でなければ、右折することがむずかしい。
(四) 原告勝美の自宅は本件交差点のすぐ近くであり、同原告は、本件交差点の信号の周期を十分に知っていた。
本件事故直前、原告車両は、右から二番目の車線を走行して、本件交差点を南へ右折するために、本件交差点内にしるされた右折車両用の停止線で停止した。
このとき、原告車両は右車線の先頭車両であり、その右側の車線にも、同様に右折車両が停止した。
その後、しばらくして、原告勝美は対向する西行き車線の車両が本件交差点東側の停止線で停止したのを認め、西行き車線の信号が赤色になったと判断して、右折を開始した。この時、原告車両の右側にいた右折車両は、同様に進行を開始し、ユーターンして西行き車線に入った。
その直後、原告勝美は、自車左側にスリップ音を聞くとともにヘッドライトの光を感じ、ほぼ同時に、被告車両が原告車両に衝突した。
(五) 他方、被告安田は、時速約七〇キロメートルで被告車両を運転し、自車前方で右折しようとする原告車両を認め、クラクションを強く鳴らすとともに、自車に急制動の措置を講じ、左転把して原告車両を避けようとしたが果たさず、自車を原告車両に衝突させた。
2 右認定に反し、証人平片純の証言、被告安田直之の本人尋問の結果の中には、本件事故の直前の西行き車線の信号の色は青色であったとする部分がある。
しかし、本件事故を目撃した第三者である証人吉田敏昭及び証人成田浩之の各証言は、北行き信号が左折可の矢印を示した点(証人吉田敏昭の証言)並びに他の西行き車両が停止した点及び東から南へ右折しようとする車両の存在の点(証人成田浩之の証言)など、いずれも具体的であって十分信用することができる。したがって、これとの対比において、証人平片純の証言、被告安田直之の本人尋問の結果を信用することができない。
3 右認定事実によると、被告安田は、西行き車両用の信号が青色から黄色を経て赤色になった直後に、本件交差点に進入したというべきであるから、青色信号にしたがって右折を開始した原告勝美と比較して、本件事故に対してはるかに大きな過失がある。
他方、原告勝美が、本件事故の直前まで被告車両を認識していなかったことは前認定のとおりであるが、本件交差点の状況に照らすと、対向車線を確実に視認することにより、同原告は対向進行してくる被告車両を、容易に認めることができたというべきである。にもかかわらず、同原告は、他の対向車両が本件交差点の東側で停止したことのみに安心し、漫然と自車の右折を始めたのであるから、同原告にも本件事故に対する過失がないとはいえない。
そして、右に認定した事実を総合すると、本件事故に対する過失の割合を、原告勝美が一〇パーセント、被告安田が九〇パーセントとするのが相当である。
二 争点2(原告らに生じた損害額)
1 原告勝美
争点2に関し、原告勝美は、別表1の請求欄記載のとおり主張する。
これに対し、当裁判所は、以下述べるとおり、同表の認容欄記載の金額を、同原告の損害として認める。
(一) 損害
(1) 通院慰謝料
甲第一号証の一、二、乙第五号証の一、第六号証の一によると、原告勝美は、本件事故の発生した平成六年七月二二日から平成七年三月一六日まで、医療法人栄昌会吉田病院(以下「吉田病院」という。)に通院したこと(実通院日数一二日)、同病院における診断傷病名は左前額部打撲、頸部捻挫、腰椎椎間板ヘルニアであること、MRI検査の結果、第二、第三腰椎の椎間板にヘルニアが認められたこと、平成六年七月二六日から平成七年一月一四日まで溝口接骨院に通院したこと(実通院日数一一五日)、同接骨院における治療は吉田病院の指導によるものであることが認められる。
被告らは、溝口接骨院における治療は相当性を欠く旨主張するが、検乙第一号証の一ないし一一、第二号証の一ないし一九から認められる原告車両及び被告車両の損傷の部位、程度に照らすと、本件事故の衝突の衝撃は相当大きかったものであることが容易に認められ、かつ、前記のとおり、溝口接骨院における治療は吉田病院の指導によるものであることが認められるから、その相当性も優に認められる。
さらに、被告らは、原告勝美の腰椎椎間板ヘルニアは既往症である旨主張する。しかし、同原告の本人尋問の結果によると、本件事故前には、同原告は腰痛を感じていなかったことが認められ、前記認定の本件事故の衝突の衝撃に照らすと、これが既往症であることを認めるに足りる証拠がまったくない本件においては、被告らの右主張を採用することはできない。
そして、前記認定の本件事故の態様、原告勝美の傷害の部位、程度、通院期間、その間の治療の経過等、本件に現れた一切の事情を考慮すると、本件事故により原告勝美に生じた精神的損害を慰謝するには、金八〇万円をもってするのが相当である。
(2) 車両修理費
乙第四号証の一ないし七、第九ないし第一二号証、検乙第二号証の一ないし一九、証人木村博一の証言によると、本件事故により生じた原告車両の損傷を修理するための費用は、金二六〇万円が相当であると認めることができる。
なお、原告勝美の請求する車両修理費は、甲第三号証に基づくものであるが、前記各証拠、弁論の全趣旨によると、甲第三号証はボディーシェルの取替えを前提とするものであることが認められる。そして、原告勝美の本人尋問の結果によると、同原告は、原告車両を修理せずに訴外株式会社キングオートレジャーに売却したことが認められるところ、乙第四号証の三、第一二号証、証人木村博一の証言、弁論の全趣旨によると、原告車両はボディーシェルを取り替えることなく修理され、さらに第三者に売却されたことが認められるから、甲第三号証に基づく原告勝美の請求を採用することはできない。
(3) 車両評価損
乙第四号証の一ないし三によると、原告車両はメルセデスベンツであること、初度登録が平成五年九月の車両であること、本件事故時までの走行距離が二二二七キロメートルであること、本件事故直前の時価が約一八〇〇万円であることが認められる。
そして、前記のとおり、原告勝美は原告車両を修理せずに訴外株式会社キングオートレジャーに売却したが、右認定事実によると、本件事故による損傷のため、修理費用を超えて車両評価損が発生し、より低い金額でしか譲渡できなかったことを優に推認することができる。
そして、甲第一二号証、弁論の全趣旨によると、右車両評価損を修理費用の三〇パーセントである金七八万円であると認めるのが相当である。なお、甲第一二号証(財団法人日本自動車査定協会作成の事故減価額証明書)は、これを金八三万九七〇〇円とするが、右証明書の記載自体から、右査定は原告車両を直接見分してなされたわけではないことが認められ、右証明書のみで直ちに右金額を採用することはできない。
(4) 小計
(1)ないし(3)の合計は金四一八万円である。
(二) 過失相殺
争点1に対する判断で判示したとおり、本件事故に対する原告勝美の過失の割合を一〇パーセントとするのが相当であるから、過失相殺として、同原告の損害から右割合を控除する。
したがって、右控除後の金額は、次の計算式により、金三七六万二〇〇〇円となる。
計算式 4,180,000×(1-0.1)=3,762,000
(三) 弁護士費用
原告勝美が本訴訟遂行のために弁護士を依頼したことは当裁判所に顕著であり、右認容額、本件事案の内容、訴訟の審理経過等一切の事情を勘案すると、被告らが負担すべき弁護士費用を金三五万円とするのが相当である。
2 原告勝正
争点2に関し、原告勝正は、別表2の請求欄記載のとおり主張する。
これに対し、当裁判所は、以下述べるとおり、同表の認容欄記載の金額を、同原告の損害として認める。
(一) 通院慰謝料
甲第二号証の一、二、乙第五号証の二、第六号証の二によると、原告勝正は、本件事故の発生した平成六年七月二二日から同年一〇月二三日まで、吉田病院に通院したこと(実通院日数七日)、同病院における診断傷病名は頭部打撲、頸部捻挫、腰部捻挫であること、X線検査の結果、頸椎生理的前弯消失、第四頸椎前部軟部組織肥厚の異常が認められたこと、平成六年七月二六日から同年一〇月三一日まで溝口接骨院に通院したこと(実通院日数六四日)、同接骨院における治療は吉田病院の指導によるものであることが認められる。
なお、溝口接骨院における治療は相当性を欠く旨の被告らの主張を採用することができないことは、原告勝美について判示したのと同様である。
そして、前記認定の本件事故の態様、原告勝正の傷害の部位、程度、通院期間、その間の治療の経過等、本件に現れた一切の事情を考慮すると、本件事故により原告勝正に生じた精神的損害を慰謝するには、金四〇万円をもってするのが相当である。
(二) 過失相殺
争点1に対する判断で判示したとおり、本件事故に対する原告勝美の過失の割合を一〇パーセントとするのが相当である。
そして、同原告は原告勝正の父親であり、原告勝正は原告車両に同乗中に本件事故にあい、傷害を負ったのであるから、原告勝美の過失を被害者側の過失と評価して、原告勝正の損害から一〇パーセント控除するのが相当である。
したがって、右控除後の金額は、次の計算式により、金三六万円となる。
計算式 400,000×(1-0.1)=360,000
(三) 弁護士費用
原告勝正が本訴訟遂行のために弁護士を依頼したことは当裁判所に顕著であり、右認容額、本件事案の内容、訴訟の審理経過等一切の事情を勘案すると、被告らが負担すべき弁護士費用を金五万円とするのが相当である。
第四結論
よって、原告らの請求は、主文第一、第二項記載の限度で理由があるからこの範囲で認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 永吉孝夫)
別表1(原告勝美)
別表2(原告勝正)